【第2回対談】三原じゅん子議員×大川豊氏 前編(厚生労働省通知の実際)

-第2回対談動画(前編)-

第1回対談に続き、福祉現場で生じている問題をテーマとして、三原じゅん子議員(前厚労副大臣)×大川豊(大川興業)による対談を実施しました。
 厚生労働副大臣をご経験された三原議員から、厚生労働省が自治体に発出する通知・事務連絡の実態、それに伴うコロナ禍における現場での混乱などについて対談を行っています。

※障がいに関する記載について
対談記事の中で、法律用語や制度を示す際は、正確性を期するため「障害者」という用語を使用しています。


わかりづらい省庁からの通達

大川豊:お忙しいところありがとうございます

三原じゅん子:総裁、ありがとうございます

大川豊:総理会見もですね、出席させていただいて。

三原じゅん子:いつも拝見させていただいて、総裁が当たった時には「おっ、やった」と思って、どれだけ鋭い質問をしてくださるのかなと期待しているんです。

【菅総理(当時)会見にて質問する大川氏(撮影:小川裕夫氏)】

大川豊:コロナ禍での知的障がい者施設の利用者さん、親御さん、福祉従事者の声をなんとかして多くの方々に届けたいなと思っております。三原さんには知的障がい者の明日を考える会にご参加いただいて、本当にありがとうございます。

 厚労副大臣として、実際に実務に携わられて、どうでしたか。我々の福祉現場の声とか届いたんでしょうか。知的障がい者の利用者さんがマスクをできないとか、外出を制限されて理由がわからないので家庭内で暴れてしまうとか、通所もダメになってるのでずっと買い物も行けない、遊びにも行けないという状況があって、それで全国から連絡が来ているんです。

三原じゅん子:総裁からそういう現場の声をね、どんどん入れてくださるので、それを私は厚労省に確認をするわけです。そうすると、「こういう通達を出しています。都道府県に出しました。自治体に出しました。これが事業所の方に通達として行っているはずです。」と返ってくる。でも「はずです」なんですよね。

 私も通達を見せてもらうんです。そうすると、「お役所言葉」ってわかっていただけますかね。省庁の作る言葉って、どうにでも、もしかしたら受け止められる。受け止め方によっては右なのか左なのか、〇なのか×なのかが、その読んだ方の判断で、もしかしたら変わってしまうんじゃないのっていう…。

【参考:新型コロナウイルス感染症に関する厚生労働省事務連絡通知】

大川豊:おっしゃる通りでございまして。

三原じゅん子:そういう通達が多いでしょ。

大川豊:例えば菅前総理の記者会見の時に、高齢者のワクチン接種の次に、知的障がいの皆さんはマスクができないので福祉従事者のワクチン接種を優先していただけないですかと質問させてもらいました。すると菅総理から、高齢者に続いて福祉関係者はもちろん介護も含めて接種を検討しますって回答をいただいたのですが、それで通達がなされたのかどうか。

厚労省からの通達は出しっぱなし!?

三原じゅん子:総理から(記者会見で発言された内容が各省庁に)降りてくるんです。そうすると、今度は厚労省が何をするかなんですね。厚労省がいろんな話し合いをして、じゃあ、こうしましょうと、最終的にまとまったものを通達として自治体に出すわけですね。

 でも、その紙がまず分かりにくい。それと同時に必ずね、総裁ともいつも話しているんですけど、「~~等」っていう「等」っていう字がつくんですね。この「等」にはどれだけのものが入っているのか。そのキャパっていうのは、読む人によってまた変わりますよね。

【厚生労働省事務連絡:「障害者支援施設等入所者等および従事者への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種について(改正)」より抜粋】

大川豊:例えば、福祉従事者とか福祉関係者、先に打てますよって、その施設の方にお伝えする。そうすると、(施設から問い合わせを受けた)自治体の方が、え?通達がどこに出ているんですか?みたいな状況なんですよ。

三原じゅん子:そうなんです。

 厚労省が私に通達を出しましたって言うんですね。でも出したけれども受け取った人が、どう考えて、どうそれを受け止めて、それを事業所にどう伝えているのか。そして、事業所との連携はどうなっているのか。それが実際うまくいって、知的障がいをお持ちの皆さんがちゃんとワクチンを優先的に打てているのか、そのワクチンを打つドクターたちの調達はできているのか。そういうことも全部追いかけてはいかないんです。通達を出したらもう自治体に丸投げ。でも本当は、その先を調べるのが大事なんでしょって。

【左】大川豊氏 【右】三原じゅん子議員

大川豊:現場でのフレキシブな対応を踏まえて、実際にどうしたらいいかっていうのが、具体的に見えてくるじゃないですか。

三原じゅん子:現場を踏まえて何が足りないかがわかる。もっとこうした方がいいですよとか、そういう声をまた厚労省に戻していただく。それを踏まえて、「今度はこれもやっていいですよ」とか、「ここにもちゃんとお金出すからどんどんこういう対策をやって下さい」とか、新しい通達を出せるんです。いわゆる「行って来い」がないと、片道切符だけではダメなんです。

ワクチン接種、大切なのは優先順位

大川豊:実際の現場で起きていることが分からないと、本当の対応ができませんよね。例えば、多くの施設では「巡回接種」っていう方法でワクチン接種をやろうとしていたんですけど、先に職域接種の実施が決まってしまって(巡回接種は後回しになってしまった)。

 主に会社勤務の方々を対象とする職域接種もすごく大切ですけど、優先的に巡回接種を行わないと施設内でクラスターになってしまう。そこの配分をキチっとやって欲しかったんです。

巡回接種…各施設にワクチン接種を担当する医師や看護師が訪問し、施設利用者の方々に一括してワクチン接種を行う方法。重度知的障がいの方等は、混雑する一般病院などへの移動が難しいため、巡回接種の実施が非常に重要となる。

三原じゅん子:おっしゃる通り。だから、その優先順位だよ。

大川豊:そう、優先順位ぐらいはちょっと検討していただいてもよかったんじゃないかっていうのもあるんです。

もっと知ってほしい、支援・介護現場のこと

三原じゅん子:知的障がいをお持ちの方はね、ご本人がまずマスクをつけて日常生活することがどれだけ困難なのか、そういうことを分からないと、現場とはズレた通達を書くようになっちゃうんですよ。

 大変ですよね、ワクチンを打とうとするわけですよ、どれだけ怖がるか。どれだけ暴れるか。それをご家族が見るのも悲しいし。

大川豊:重度の方だと集団接種会場には行けないんですよ。だから巡回接種が必要になる。アナフィラキシー反応とか色々あるので、日常的に診てもらっているかかりつけ医にお願いしてとか、こういうことがちょっとできないと難しいんです。

 例えば強度行動障がいと言いましてですね、お子さんとか利用者さんが暴れてしまう方がいるんですけど、それは注射行為になると、もう抑えられない。下手すると、1人に対して5人の付添人とかがいないと集団摂取会場に行けないみたいなことがあったりとかします。

省庁の内部でも縦割り

三原じゅん子:そういうことを考えれば、こっちから行くなんて普通考えないですよ。まずね、普通に(医師に)来ていただけるようなそういう態勢をとるのが普通だと思うんです。

 これは厚労省だけを責めているわけではなくて、どこの省庁もそうなんだけど、私が(省庁の中に入って)1番感じたのが、省内って縦割りなんですよ。

 厚労省って、担当部署っていうのがいっぱいあるわけじゃないですか。今のことにしたって、知的障がいの部署があって、ワクチン接種はワクチン接種の部署があって、集団接種は集団接種の人たちの担当者がいて、本当にみんな縦割りなんですよ。だからね、省内でも知的障がいの方々の施設でワクチンを打つことに、どれだけの省庁の担当者が必要かっていうことになってくるんですね。そこで考え方が違うと、まとまらないんです。これに私はびっくりしたんです。

三原じゅん子議員

 今も野田聖子大臣にこども家庭庁を担当していただいていますが、それもほんとに同じなんです。いわゆる子どものことなのに、省庁が縦割りだと「これはうちの話じゃありませんから」になるんです。だから、こども庁が必要だって言ってくださって作ることができるようになったんですけど、省庁の中でも縦割りなんですよ。省庁同士ならわかる、なんとなくね、縦割りってよく聞くから。でも、中に入ってみたら、中でも縦割りなんだと。

【省庁間での縦割りのイメージ(各省内でも同様の状況が生じている)】

大川豊:さらにそれで各自治体に通達が行って

三原じゅん子:自治体の担当者によって、全然その読み方も違うでしょうし、担当者がその分野にどれだけ関わっているかによっても違ってしまうんです。

現場の努力に理解を

大川豊:奈良県の施設の方でも、残念ながらクラスター的なことが起きてしまったんですけど、保健所と連絡がつかない、電話に出ないという現状があったりしました。

 千葉県の施設ですと、例えば抗原検査はできるんですけど、その後にちゃんと病院でPCR検査を受けなければいけない。けれども、その陽性の利用者さんを病院に連れていくには、陰性の職員が車で連れて行かなきゃいけない。そうすると、その陰性だった職員も車の中で感染してしまい、結局収集がつかなくなるんですよ。

 勉強会でもお伝えしたと思ったんですけど、クラスターが発生したことをきっかけに、初めて対応するため仕組みができたという自治体が沢山ありまして、実際にその後上手く連携しているところもあります。

 ですけど、強度行動障がいの方などは常時付添人がいないと病院や軽症者ホテル、療養施設での受け入れはできないことが多いので、なるべく施設内で療養するっていう方向で、皆さん自助努力でもの凄く頑張っているんです。

大切なのは検証すること

三原じゅん子:知的障がいの方がお一人いらっしゃれば、その方の支援に多くの方が必要になるっていうことを、根本的なことですけど、そこをもう少し理解しないと。

 このコロナの中で施設の中でみんなが戦ってるわけですよ。保護者の皆さんも一緒に、みんなで戦っているんだけど、人員はそんなにいるわけではないわけです。そこをもう少し理解しないと。「通達を出しました」で終わりでは、本当に絵に描いた餅で終わってしまっているんだと思います。そしてそれから、その先、検証をすることが、私はすごく大事だと思うんです。

大川豊:例えば、コロナ感染拡大の第5波が終わった時ぐらいに少し落ち着いたじゃないですか。自分たちとしては、もう第6波に向けて、オミクロンに向けて準備を始めていたんですが、厚労省の方で検証とか、その後どうなったかってという調査はされていたんでしょうか。

三原じゅん子:私は多分、十分な検証してないと思います。

大川豊:そうですか…。

三原じゅん子:はい、ほんと検証しないですよね

大川豊:厳しいですね。

【左】大川豊氏 【右】三原じゅん子議員

三原じゅん子:検証は絶対大事なんです。次に何かを起こす、起きる時に検証って絶対しなきゃいけない。ただ、それするのはやはり大変ですし、自治体にも負担がかかるって言うんですね。

大川豊:そうですね。報告書作るだけでも、はい。

三原じゅん子:これだけ忙しいのに、それさえも(自治体に)やらせるのかという話も出てくるんですね。

 だから、もうここ2、3年は十分な検証できてないと思います。その手間も自治体側にやっぱりかけられない。だから、厚労省もあえて検証してくださいとも言わないし、検証しようとも言わない。大事なことですけどね。次の大きなええ波が来た時に、すごく大事なことなんだけど。

 だから、1回目、2回目のワクチン接種がどうだったのかっていうのがきちっと検証できてれば、3回目の時にものすごいスムーズに行ったはずですよね。

大川豊:未だに(知的障がい児者は)一般接種と同じな感じです。

三原じゅん子:医療従事者と一緒でいいでしょ。

大川豊:いやそうですよ、だって今、知的障がい者施設だけじゃなくて、介護施設でさえもクラスターの連発です。

三原じゅん子:(クラスターの発生は)飲食店じゃなかった、結局は。

 今は、学校か施設なんですよ、それがわかったわけですよ。なんで介護施設とか障がい者施設のスタッフが、医療従事者と同じ扱いを受けないのかが私は本当にわからない。

大川豊:(ワクチン接種の間隔が)8か月っていうのも、なんか、本当に8か月が必要なのかっていう疑問もあります。

三原じゅん子:あれはヨーロッパが8か月だったから真似しただけ。だから向こうが6か月になったから、すぐ真似している。

「知的障がい」の定義とは

大川豊:「知的障がい」の定義っていうのが、日本では法律で定義化はされていない。けれども、例えば世界的な標準レベルで言うと、IQ70で切るっていうのがあります(※WHO:ICD-10の基準)。

【ICD-10の基準に基づき障がい者福祉研究所が作成】

三原じゅん子:日本の「知的障がい」の定義がなぜこのような状況になっているのかと、何年でしょうね、言い続けて。

大川豊:実質的には(日本の知的障がいの方々は)200万から300万人ぐらいいらっしゃるはずです。今、更に問題になっているのは、境界知能、グレーゾーンって言われている方々が、今、大変な思いをされている。

【障がい者福祉研究所が作成】

三原じゅん子:つい最近もありましたね。

大川豊:そうです。

三原じゅん子:大人になって仕事をして、初めて自分が発達障がいだったのかもしれない。そういうことで気づいた方もいらっしゃる。もちろん親御さんたちからすれば、認めたくないという気持ちがおありになるかもしれないけれど、きちっとした定義さえあれば色々なことができるはずなんですね。

大川豊:ヨーロッパですと、軽度の方には軽度なりの職業訓練があったりします。例えばオランダで聞いたんですけど、グレーゾーンだった人は1回自己申告してくださいって言っていて、それに合わせてちょっと職業訓練をしてみましょうと。あなたもしかしたら、障がいをお持ちかもしれないけれど、この職業が向いているよって、ちゃんと言っていただけたりするんですよ。

三原じゅん子:自分のすごく得意な分野、秀でてる分野を見つけてくれて、そっちの仕事をさせていただけるとか、そういう才能を伸ばしてもらえるとか、そういうことも早くからできる。

大川豊:今ニュースで取り上げられているのは、妊娠された女性の方が羽田(空港)で生んでしまって…っていう。

 でも、多分、その方は分からなかったんだと思うんですよね、いろんなことが。そういったことが、事件にならない色々なことが多分起きているんだと思うんですよ。

三原じゅん子:そうなる前に、色々とできることがまだまだあるはずなんです。

けれども、最初のその定義すら日本は決められないというようなところがあるので、これは私たち議連(知的障がい者の明日を考える議員連盟)が大きな声を上げていくしかないと思っています。

 やはり、うちの議連は、現場の声を1番大きくいただける議連なので、そこはどんどん遠慮なく、私は政府に対してこれからもモノ申していきたいと思っています。

(後編へ続く)